ニューヨークは思ったよりもホームレスは少なく、物件の空き状況もなく、街の雰囲気からは不況という印象をほとんど受けませんでした。街の雰囲気は明るく、株価に見合った好況ぶりの感じでした。
初日の夜にタイムズスクウェアに行くと、何やらコスプレをしている人達をたくさん見かけ、最初は何かのお祭りかと思っていたのですが、どうやら観光客のチップ(小銭)目当てにコスプレをしている人達だと分かりました。
10年以上前、ニューヨークに行った時はあまり見かけませんでしたので、最近の流れのようです。
ニューヨークの街を歩いていると、他にも色んな方法でチップ(小銭)をもらおうとしている人がニューヨークにいることに気づきました。
わずか3日間ですが、私が出会った方々です。
・地下鉄内でギターを弾いて歌を歌う人
・3人組で地下鉄の車両内でバク転等、アクロバットを披露するチーム
・地下鉄のホームでチェロを弾く人
・車両の中で突然しゃべりだし、仕事がなくて生活が大変だから、小銭をくれと訴える人
・路上でコップを持ち、信号待ちをしているドライバーから小銭をもらおうとする人
・路上に座り込み、チップをくださいという看板を立ててひたすら待っている人
・自由の女神やアニメのキャラクターなどの着ぐるみのコスプレをして、街角に立っている人
・巨大なシャボン玉を公園でひたすら作っていた人
・セントラルパークの入り口でチームで大人数でダンスショーを披露していた人
さて、ここでクイズです。
上記の中でどの人(チーム)が効率良くお金を集め、どの人が全く相手にされていなかったでしょうか。
スタートアップの原則で考えて、ロジカルに答えが出ますので、トレーニングとして考えてみてください。
#答えはこの後で
ロンドンの地下鉄でも同じく楽器演奏をする人達を「バスカー」と呼んでいますが、こちらは審査制度があり、自由に何か地下鉄でパフォーマンスはできません。
一方でニューヨークは完全に無法地帯です。
また、市民の人々がいいパフォーマンスには気前よくチップを払っていたのが印象的でした。
日本人だと、いきなり電車内でパフォーマンスを見せられてお金を払う習慣などありません。ニューヨーカーの方はチップを求められると、納得した上でしっかりチップを払うマインドが出来上がっていました。
更にロンドンの場合は基本的に音楽演奏が基本なのですが、ニューヨークの場合には、上記の通りとにかくバラエティが多く、良くまぁ、色んな事を考えるものだと感心しました。
で、これらの行為を観察していると、うまくいっている人とそうでない人の差には起業でビジネスを成功させるのとと全く同じ法則であることに気づきました。
おそらく彼らは会社登記などもせず、資本金などもないでしょうが、何をするか自分で考え、それを顧客に提供し、お金をもらう。
一般的なビジネスと何ら変わりません。
さて、さきほどのクイズの答えです。
私があくまで観察した範囲となりますので、主観であり事実と違うかもしれません。
正解が違っていてもクレームは受付ませんので、あしからず。
1位は電車内でバク転など、アクロバットを披露していたチームです。
おそらく、路上でダンスショーを披露しているチームもかなり稼いでいると思うのですが、一つのショーに時間がかかっていたのと、大人数だったことで、1位にしませんでした。ただ、大勢を集めていたのは事実です。
電車内でアクロバットを披露しているチームは3人一組で、1駅の間に1パフォーマンスを見せて、次の駅につくと、次の車両にうつってパフォーマンスを繰り返していました。
パフォーマンスを見せた後は、コップを回してチップを集めていましたが、中には10ドル札で支払っていた方もいて、一回のパフォーマンスでコップ一杯にお札が満杯になっていました。
3,000円近くは一回で稼いでいたかもしれません。
最下位は電車の中で仕事がなくて生活が大変だから、と言って小銭をくれと言っていた人です。
スタートアップの原則である2つポイントが大きく影響しています。
それは
・価値交換の原則
・顧客コミュニケーション
の2つです。
1.価値交換の原則
→顧客にとって得られた価値が高いものにはより多くのチップが払われる
アクロバットチームは天井に足がつくほどの高いバク転を見せたり、狭い中なりのアクションが考えられていて、技術的に見ても高いものを提供していたことは事実です。
路上でのダンスチームもかなりのお客さんを集めていました。
一方で、電車の中で生活苦を訴えていた人や、路上でコップを持っている人もそうなのですが、自分の窮状を訴えてチップをもらおうという人はほとんどチップをもらえていませんでした。
彼らは「哀れみ」を出すことによって同情を引き、チップをもらおうとしていたのですが、チップを支払った人が得られるのは、「貧しい人にめぐんであげた」という満足感くらいでしょうか。
価値の交換という原則からすると、とても弱い価値です。
寄付の先進国であるアメリカ人でさえ、彼らの周りから逃げていたのが印象的です。
さきほども書いた通り、ニューヨークではいいものにはお金を払う、そうでないものにはお金は払わない、という線引きがはっきりできているように感じました。
2.顧客コミュニケーション
→顧客とコミュニケーションを取りながらビジネスができるか
アクロバットチームは、1つの車両にいる人間にしかアピールできないため、一度に多くの人にリーチはできません。ただどこまでが顧客かということがはっきりしており、またリーチできる範囲に顧客がいたことが特徴です。
電車内でギターを弾いていた方も、比較的チップを集めていましたので、狭い範囲だけどしっかり稼いでいたほうです。
ホームでチェロを弾いていた方は、とても演奏はうまいのですが、少し近寄って払うとなると抵抗感を感じます。
ホームは1つの車両というセグメントよりも、より多くの人にリーチできていたはずなのですが、演奏しているパフォーマーを避けながら人々は歩いていました。
さて、最初に見たコスプレをしていた人達はどうだったかというと、寒い中立っている割にはあまりチップをもらっている感じではありませんでした。
彼らのターゲットは、ニューヨーカーではなく、観光客がメインターゲットです。
ただ観光客からすると、なぜ彼らがコスプレをしているのかその意味がほとんど分からず、素通りしてしまう人がほとんどです。
陽気な観光客が「一緒に写真を撮って!」と近づいてくれて初めてチップがもらえます。
皆さんも日本人であれば、コスプレや仮装をしているからといって相手にチップを渡すことはほとんどないでしょう。
そういった意味では、顧客と価値提供側とのミスマッチングが起きていたのかもしれません。
あと問題点は競合が多いということです。
見ていると同じ自由の女神の格好をした人が何人もいます。
はたで見ていると面白いのですが、しょっちゅう同じ自由の女神に会いますので、毎回毎回写真を撮ることもなく、誰に支払ったら良いかわかりません。
ところで、順位に関係無く、色々あるパフォーマンスの中で私が注目したのは、公園で巨大シャボン玉を作っていた人です。
やっている作業はロープをシャボン液につけ、それを広げてシャボン玉を作っているだけです。
特に、シャボン玉で特定の形を作るなどのパフォーマンスはしてませんが、公園にいる人は自然と目がいき子供達が親からお金をもらってチップを渡していました。
この場合、メインターゲットは大人というよりも子供ということになります。
そんなに大金を得ている様子はありませんでしたが、アクロバットや音楽演奏みたいに、特別なスキルも必要とせず、石けん液という投資で稼いでいましたので、かなり効率的なビジネスです。
スキルなどなくても、アイデアと自分のポジショニングを見つけられれば、低投資でもしっかりお金を稼げるいい事例だった気がします。
「価値の交換」と「顧客コミュニケーション」を切り口にニューヨーカーのパフォーマーを分析してみました。
彼らを観察していただけでも、色々な学びが得られたが気がします。
私は、彼らがそれぞれいくら稼いでいるのか実際に調べていませんが、しっかりとしたリサーチをしてみたら、もっと面白いデータが見えてくるかもしれません。
もしニューヨークに行く機会があれば、彼ら路上パフォーマーを観察してみてください。私とはまた違った発見があるかもしれません。
余談ですが、その後ラスベガスに行き、同じようにチップをもらおうとしている人達を見かけましたが、こちらはニューヨークのコスプレほどは稼いでいないようでした。
ニューヨーカーの人達よりも「Tips」と書かれた缶を目の前に立てて、より観光客へのアピールは激しかったのですが、ほとんどの観光客は素通りです。
ニューヨークで見ていても、パフォーマーにチップを払っていたのは観光客というよりは現地のアメリカ人でしたので、観光客というターゲットにしぼった場合には、価値提供のしかたを工夫しないと難しいと思いました。