2016年12月31日、いよいよSMAPが解散をします。
2016年の一年を通して騒がれてきた騒動も、よほどのサプライズがないかぎりこれで一区切りつくことになります。
今回のSMAP解散騒動。
人事的な観点からみると、「木村拓哉さんが独立しようとしたときに裏切ったのが悪い」、とか、「香取慎吾さんがガンコなのがいけない」、とか、そもそも「SMAPのチーフマネージャーだったIマネージャー」がいけない、といったように誰が問題なのか、というように見ていきます。
そこを、「組織開発」という組織の観点から経営の問題を解決していく手法を通して、経営者としてどのような判断をしたら良かったのか考えてみたいと思います。
1.組織を徹底的に管理することによって成果を出してきたジャニーズ事務所
一連の報道では、香取慎吾さんと木村拓哉さんの確執が原因だと報道されており、その発端は、SMAPのマネージャーを長年務めていたIマネージャーが事務所を辞めてしまったことです。
そのきっかけになったのがジャニーズ事務所の副社長であるジュリー副社長の週刊文春へインタビュー。
そのインタビュー記事を見るかぎり、どうもジャニーズ事務所は、規律を重んじ、上下関係を大事にし、徹底して管理することを主としていました。
「もし、うちの事務所に派閥があるなら、それは私の管理不足です。事実なら許せないことですし、あなた方にそう思わせたとしたら、飯島を注意します。今日、(飯島氏を)辞めさせますよ。」
※週刊文春のインタビュー記事からの引用
管理を徹底するような状況を組織開発では「組織化領域」と言います。
徹底的なマネージメントによって人、モノ、カネを管理することが一番成果を上げる状態です。
これがうまくいくのは、リーダーが成功ノウハウを持っている時です。
リーダーは、「私の言う事を聞けば確実に給料は上がるし、あなたの生活は保障しますので、私の言うことは聞いてください」という暗黙の合意を、リーダーとメンバーの間で形成します。
結果として、メンバーのリーダーに対する依存度は高くなり、上の顔色を常にうかがい、指示待ち人間が多くなる組織となっていきます。
リーダーがうまくいくノウハウを持っているからこそ、カリスマ的なリーダーができやすく、社員もリーダーの言う通りに動けば、成果を一番早く出せることも知っているので、早い成長をすることができます。
この「組織化領域」が有効なのは、市場が伸びていたり、会社が急成長しているような段階です。成長が鈍く、不安定な状況において徹底的な管理を行うと、「給料が充分でない」、とか「雇用の保障がない」、などと、ブラック企業として噂されるようになるので注意が必要です。
ベンチャー企業においても、顧客獲得に関してのノウハウが見えてきたあたりでこの領域に入ると、一気に業績を伸ばすことができます。
ジャニーズ事務所は、男性アーティストのプロデュースノウハウを持っていたので、次々と新しいユニットを成功させていくことができたのでしょう。
誰を、どのように売り出せば、タレントとして成功するのか見極める力があったからこそ、強力なマネージメント力でここまでの一大勢力を築けたわけです。
2.ジャニーズ事務所の管理から外れることによって産まれたSMAP
一方で、SMAPは、Iマネージャーが独断で仕事をとってくる事が多く、他の所属しているタレントともあまり絡まずに仕事をしていたようです。
つまり、非常にマネージメントが強いジャニーズ事務所にあって、Iマネージャーが試行錯誤しながら、一線を画した立ち位置で仕事をしていたわけです。
こういった状況を「自己組織化領域」と言います。
自己組織化領域とは、メンバーがリーダーに依存せずに、自分達で考え、行動をしていきます。つまり、メンバーそれぞれがリーダーシップを発揮する「自立型リーダーシップ」の状態になっています。
スタートアップのエコシステムができている今のシリコンバレーは、まさにこの領域です。政府などによってベンチャー企業が管理されているわけではなく、民間中心でベンチャー熱が盛り上がっているような状態です。
あちこちで自然発生的に新しいビジネスが生まれ、消えて、また生まれるというサイクルが発生しています。失敗も多いが、その分イノベーションが一番起きやすい領域といえます。
会社経営では、管理されたマネージメントによって業績を上げるのではなく、メンバーがそれぞれ自律的に考えることによって、組織活動に革新をもたらしていきます。
グーグルなどは、組織がこの領域の状態であることを大切にし、社内から新規事業が産まれる環境作りにこだわっています。
日本でいうと、製造業に古くからある小集団活動や、稲盛さんが提唱するアメーバー経営などがこの領域にあたります。
実は、SMAPはこういった要素を持っていたからこそ、今までの男性アイドルとは違うブランドを作ることができました。
音楽番組が減っていくなか、バラエティ番組に進出をし、アイドルがお笑い番組に出るなど、今では当たり前となる光景を切り開いてきました。
また、アートディレクターと組んでCDキャンペーンを行うなど、アイドルの枠を越えたカルチャーを作り上げたからこそ、ファン以外の人にとっても気になる国民的アイドルになったわけです。
topys.cnより
※CDキャンペーンでは自動販売機でオリジナル飲料を販売し、街中に「SMAP!」を露出
topys.cnより
※渋谷中のポスターや車などをSMAPでラッピング
SMAPは、今までの男性アイドルのイメージを変える、まさにイノベーションを起こしました。
この領域において企業が一番すべきことは、密にお互いの関係を作っていくことです。
トップダウンという組織ではありませんので、お互いがお互いに言いたいことを言い合い、より高めあえる関係を作っていくことが大事です。
メンバーが自分にもリーダーシップを持っているという意識を持ち始めると、成果をより高く出せるようになります。
まさにSMAPも、SMAPというチームでありながら、リーダーにメンバーが従うのではなく、メンバーそれぞれの得意分野で活躍していたのがその象徴でしょう。
3.事務所とアーティストとの関係が崩れたことによって起きたカオス状態
ジュリー副社長のインタビュー記事が出た時、何が起きたのかというと、「組織化」を貫き通したい事務所側と、今まで通り「自己組織化」を維持したいIマネージャー及びSMAPメンバーとの間に、とうとう亀裂が生じてしまったということです。
今回、文春のインタビューがそもそものきっかけとなっていますが、おそらくは前々からお互いの間にくすぶっていて、インタビューをきっかけに表出してしまったのだと思われます。
企業にどう貢献するのか、という考え方が全く違うわけですから、水と油です。
で、一度は全員で独立の話しになったかと思ったら、木村拓哉さんだけがジャニーズ事務所に残るとか、ジャニーズ事務所に全員で戻る、という話しが出たり、行ったり来たりして先行きが全く見通せなくなってしまいました。
終着点が全く見えなくなってしまう状態を「未組織化領域(カオス)」といいます。
「SMAP解散か!?」とニュースが流れた時、世間は大騒ぎになりました。
芸能ニュースにも関わらず、NHKのニュースで取り上げられ、ファンは解散阻止のためCDを購入し、政治家までSMAPについてコメントするような状態です。
おそらく、ここまでの事態になるとは当のSMAP本人達もジャニーズ事務所も想像していなかったでしょう。
「未組織化領域」は、企業経営でいうと、事業破綻した直後で会社がこの先どうなるのか見通しが立たず、組織のメンバーがとても不安な状態に陥っているような状況です。もしくは、M&Aにより、2つの組織がぶつかりあって、お互いの組織が綱引きをしながら、何が正しいのかも良く分からなくなってしまうような状態です。
今年の話題でいうと、シャープが台湾の鴻海からの支援を受けるのか、日本の産業革新機構からの支援を受けるのか、揺れに揺れていたような状態です。
「未組織化領域」はネガティブな状態のように思われるかもしれません。実は、この領域は事業破綻時だけでなく、どういった事業を行うのか見えていない、創業前の状態でもあります。
何をしたら自分の事業がうまくいくのかまだ分かっていない状態なので、将来に対する不安や恐れと同時に、ワクワクや期待感といった感情も起きます。
このような状況において一番すべきことは、何に「なぜ」自分達が取り組んでいるのか、ビジョンやミッションなどについて語ることです。つまり、ストーリーを作っていくということになります。
稲盛さんがJALの破綻時に「JALフィロソフィー」という企業理念を作成し、社員のよりどころとなる軸を作ることによって、社員の心を一つにしていきました。
多くの成功した起業家にインタビューをしていても、事業創造時にこの「未組織化領域」を抜け出す時は、自分達が「なぜ」その事業をするのか「気づき」が起きた瞬間でもあります。
リーダーの立場である場合、ストーリーを上から押しつけるのではなく、メンバー自身がどのようにしたいのか、自分達で語れるようにしていく必要があります。というのも、何が問題なのか、リーダー自身も分かっていないケースが多いからです。
稲盛さんが「JALフィロソフィー」を作られた時も、稲盛さんが文章を考えたのではなく、社員に企業理念を作らせました。
ですので、リーダーシップでいうと、「寄り添い型リーダーシップ」とでもいえるかもしれません。
セラピーの現場では、クライアントが混乱した状態でいらっしゃったりしますので、セラピストはアドバイスや説得などは一切せずに、ただ寄り添いながらクライアントが復活できるエネルギーを引き出していきます。
ご自身でやりたい事が見つかると、あとは自然にモティベーションが沸いて前にどんどん進んでいくからです。
組織化領域から、未組織化領域に投げ出されると、自分達が依存していた組織の大きさに気づき、パニックが起きます。
自分達は関係無いと思っていたことが、突然、色々と関係がある事に気づくわけです。
SMAPの場合には、独立しようとしたらジャニーズ事務所の影響力の大きさに気づき始めます。一枚岩と思われたSMAP内も、木村拓哉さんだけ別の意志を示したことによってカオス状態に陥ってしまいました。
カオス状態になってしまったわけですから、自分達のスタイルを続ける独立を貫くか、独立意志を示した4人のメンバーがジャニーズ事務所に謝罪し、会社の管理下に入る、組織化領域に移行するしか無かったわけです。
結局、メンバーが選んだのはとりあえず謝罪をし、ジャニーズ事務所に残るという選択でした。とはいえ、SMAP×SMAPで映し出されたテレビのようすでは、心から喜んでジャニーズ事務所に残るようには見えませんでした
その結果してメンバーが決めたのは、事務所に戻っても、今までのSMAPの活動はできないとメンバーが感じ、解散という結論を導き出したわけです。
事務所が解散しないように相当遺留したという報道がでています。おそらく事務所側としては、自分達の管理下に戻ってきてくれたので、今まで通り活動してくれるだろうと期待したいたはずです。ところが、メンバーの心はすでに離れており、形だけの活動はとても耐えられなかったのでしょう。
4.組織開発の観点からベストな解決策を考えてみる
報道によると、SMAPに関する関連事業は220億円だそうです。
これを、自分の意に沿わないのであれば、いったんは「出てけ!」と言い放ったジュリー副社長は太っ腹です。
ジャニーズ事務所の年間売上げが1,000億円とも言われているので、20%もの売上げを放出しようとしていたわけです。
株主からのチェックが入る経営者であれば、なかなかできない意志決定です。
そこは、経営方針として自分の意に沿わない人は組織内に残って欲しくないという、ジュリー副社長の思いもあるのでしょう。
さて、ここで私がジャニーズ事務所の社長だったら、という意見を最後に述べておきます。
今までSMAPがうまくいっていたのは、自己組織化領域にいたからです。だからこそ、独自のブランドを作ることができ、国民的アイドルと言われるまでに成長しました。
自己組織化領域にあったものを、組織化領域に入れてしまい、マネージメント管理を強化すれば、彼ら自身の面白さは失われるでしょうし、メンバー自身のモティベーションがダウンすることは目にみえています。
何と言っても、一度もめた相手ですので、一緒に船に乗り続けても気持ちのいいものではありません。
かといって、解散させたとしても、会社にとっては経済的損失と会社としてのブランド毀損が大きく、あまり賢明のように思いません。
となると、残された道は自己組織化領域において、再度関係を結び直した形で再出発させるということです。
具体的には、SMAPのための、SMAPによるSMAP株式会社をジャニーズ事務所が設立し、資本関係はあるものの、経営に関しては一切任せるようなスタイルを取ることです。
タレントのタレントによるタレントのための会社を作るということです。
今までは、経営者と社員という関係だったものを、出資者と経営者という関係に変えるということです。
SMAP活動に関するマネージメントは、新会社が行えばいいでしょうし、個々のソロ活動については、ジャニーズに残りたい人はジャニーズで、新会社に任せたい人は新会社で行えばいいでしょう。もちろん、長年SMAPを支え続けてきたIマネージャーが社長として就任すれば、業務上は問題ないはずです。
ジャニーズ事務所は、新会社との関係を切りたかったら株を売却してもいいでしょうし、株式公開をしてキャピタルゲインを狙ってもいいでしょう。
タレントによるタレントとファンのためのスタートアップ企業。事務所のバックアップはありつつ、事務所とのしがらみもなく事業ができるということです。
芸能事務所にとってタレントの独立問題は頭の痛い問題のはずです。過去には安室奈美恵さんの独立問題が大きく報じられました。
芸能事務所としては、せっかく手塩に育てたタレントが独立してしまうと収入源が一気になくなってしまうので、とても怖いわけです。
となると、独立しないように脅しをかけ、独立したら徹底的に干すという手段で対抗します。
どう考えても生産的ではありません。
そういったムダを無くすのであれば、事務所とタレントとの関係性について再構築するような対応のしかたを再考してみれば、芸能界にもっとイノベーションが起きるような気がしました。
このような分析は、第三者だからこそ冷静にできます。心の行き違いは、理屈では分かっていても、感情のもつれからうまくいかないのが人間関係です。当事者の方達にとってはとてもストレスフルで大変な事だと思います。
SMAPの活躍は、芸能界に大きなイノベーションを起こせたいいチャンスでした。組織開発の役割を担う人がジャニーズ事務所に関わっていれば、謝罪や解散とは違う道を作れたかと思うと残念です。
SMAPが解散するとはいえ、メンバーの芸能活動は続いていきます。個人的には、SMAPのメンバーそれぞれがどんな活躍をしていくのか今後楽しみにしています。
企画経営アカデミー 大槻
________________________________________________________________
企画経営アカデミーでは人事の手が届いていない、組織戦略や採用戦略をサポートする組織開発を活用したサービスを提供しています。離職率問題やとんがった優秀な人材の採用、社員の生産性向上などに寄与します。詳しくは下記をクリック